いたって、食わして行けなけりゃあ、人間は死ぬだろう、生れたものに食べさせねえで殺すより、痛いも痒《かゆ》いも知らねえうちに、片づけてしまった方が、慈悲なんだとさ」
「かわいそうだなあ」
「かわいそうだって仕方がねえや。おいらなんぞも、家が貧乏なんだから、お母《っか》あが、間曳いてしまうつもりでいたのだが、おいらが生れるとニコニコと笑ったから、つい間曳く気になれなかったんだとさ」
「変だなあ、そんなに子供が邪魔になるなら、産まなけりゃいいにな」
「産まなけりゃいいったって、生れるのは仕方がねえや」
「産まねえようにできないのかなあ」
「うんこと同じだよ、出したい時には我慢ができないだろう」
「だって、子供を産むのは、お母あばかりだろう、うんこは誰だってするよ、どうかして、お母あに子を産ませないようにできないものか知ら」
「馬鹿、お母あに子を産ませないようになんぞできるものか」
「だって」
「くにい[#「くにい」に傍点]の家を見な、もう七人あるけれど、また始まったって言ってるぜ」
「どうして、お母あが、そんなに子を産みたがるんだろうな」
「自分じゃ、産みたがらなくったって、ひとりでに出て来るんだから仕方がないじゃないか――女ちうものは、子を産むように出来てるんだぜ」
「そうだ、子を産むのは女ばかりで、その女も、お母あにならなけりゃ産まねえのだ、お母あになると仕掛が違うのかなあ」
「馬鹿――子を産むのはお母あばかりじゃねえぞ、家の姉《ねえ》やなんぞも、奉公に行ってから家へ帰って子を産んだぞ、だけんども、姉やの子じゃいけねえからって、おいらの弟にしてあるんだ、だから、姉やだって産むよ、お母あとばっかりきまったもんじゃあねえや」
「でも、うちの姉やは産まねえよ」
「ちぇッ、お母あだって、産まねえお母あもあるよ、あの新屋《しんや》をごらん……」
「みんな知らねえのかい、御亭主を持たなければ子は産まねえんだぜ、いくらお母あだって、御亭主が無けりゃあ子が産れないよ」
「御亭主てのは何だい、父《ちゃん》のことかエ」
「そうさ――父親と母親というものがあって、はじめて子が生れるんだよ」
「だッて……」
「だッて、姉やは御亭主が無くって子が出来たというじゃねえか」
「そりゃあ――そりゃあ」
「先生のお松さんだって、ごらん、御亭主が無くって子供があるよ、そら、郁太郎様と、登様と、二人も子供があるじゃないか」
「そうさなあ」
「だから、父《ちゃん》が無くたって、子供は出来るんだぜ」
この話をお松は立聞きをして、ある時は吹き出したくなり、ある時は恥かしくなり、ある時はまた身ぶるいをするほど怖ろしくなりました。
これら、無心の子供に言わせる社会相。
子供が出来ても食わせられないが、子供は産れるものだ。
この子供らは、子供の生れる性の知識には暗かったからいいようなもの、これでも出産の結果の負担の重いことを、家庭から深刻に吹き込まれている。
産れたものは、食わせなければならぬ。その家々で食わせられなければ、他の方法で食わせて生かさなければならないものだと思いました。食わせられないがために、生かしては置けないということ、そういう場合には間曳《まび》いてしまうが、むしろ慈悲だという考えは、どうしてもお松に同意の余地を与えないものでありました。
産れた子は、きっと育てられるように、家々の生活を保証させてやらなければならぬ。家々でやれなければ村々で……村々でやれなければ、お上《かみ》の手で……どうしても、そうしてやらなければならないものだと、お松は考えさせられました。
人間を多く産まないようにすることができないならば、家庭を富ましてやらなければならぬ、家々の生活を楽にしてやらなければならぬ、それには、どうしても土地を富ますように、その土地から、よき職業と、よき産物を見出して、生活を楽にしてやりさえすれば、この悲惨は救われるはず――お松は、日頃考えていないことではなかったが、今の無邪気な、怖ろしい会話を、子供の口から聞かせられた時に、一日の急のように、強くそのことを感ぜしめられました。
そこへ、ノソリと入って来たのは、海蔵寺から帰った与八です。
六十
その翌日、東妙和尚と、与八と、ムク犬とが相携えて、吉野村へ梅を買いに行きました。
村へ入ると、千樹の梅林――それを東妙和尚がいちいち見立てて、持主と値ぶみをする。協定が済むと、サラリサラリと代価を払う。
梅はもとより移植するためではない。代価を過分――といっても、材木や、薪として売り飛ばすよりは過分な代価を払っての上に、倉敷料としての見つもり若干を与えて、そのままにし、季節に実を取るだけの約定なのだから、売ってかえって保護をされているようなもの――取引も至極円満に進行して行きまし
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