って炉の火に加えると、火の色が珊瑚《さんご》のように赤くなりました。
そこでピグミーは、仔細らしくあごの下へ手を当てて、火の光をながめて、何か弁信の話しかけるのを待っているかのように見えます。
ところが、弁信がいっこう気乗りがしないようでしたから、ピグミーが、また何かハズミをつけてやらないことには、手持無沙汰でたまらないはめ[#「はめ」に傍点]となって、
「ねえ、弁信さん、今までお前、何を聞いていたの」
「尺八を聞いておりましたよ」
「へえ、おいらにはいっこうそんなものは聞えなかったが、どこで、誰が吹いていたんだい」
「信濃の国の、白骨の温泉で、尺八を吹いているのが、いま私の耳に聞えました」
「じょ、じょうだんじゃねえ!」
ピグミーが反《そ》っくり返ってしまいました。
「弁信さん、お前、ここをどこだと思ってるんだい――信濃の国というのは、これから一百里も離れているんだぜ、なんぼお前の勘《かん》がいいからといって、信濃の白骨で吹く尺八が、お前の耳に聞えるはずはあるめえ。でも、お前のことだから何とも知れねえ。そうして、その尺八は何を吹いていたんだい、それを聞かしてもらいてえ」
「鈴慕
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