大菩薩峠
鈴慕の巻
中里介山
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)田舎家《いなかや》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)六枚|屏風《びょうぶ》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「土+巳」、第3水準1−15−36]
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一
天井の高い、ガランとした田舎家《いなかや》の、大きな炉の傍《はた》に、寂然《じゃくねん》として座を占めているのが弁信法師であります。
時は夜であります。
弁信の坐っている後ろには、六枚|屏風《びょうぶ》の煤《すす》けたのがあって、その左に角行燈《かくあんどん》がありますけれど、それには火が入っておりません。
自在鉤《じざいかぎ》には籠目形《かごめがた》の鉄瓶がずっしりと重く、その下で木の根が一つ、ほがらほがらと赤い炎を立てている。
この田舎家の木口というものが大まかな欅作《けやきづく》りで、鉋《かんな》のはいっていない、手斧《ちょうな》のあとの鮮かなところと、桁梁《けたはり》の
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