雄渾《ゆうこん》(?)なところとを見ても、慶長よりは古くなく、元禄よりも新しくない、中通《ちゅうどお》りの農民階級の家《や》づくりであることはたしかであります。
さてまた、弁信の頭の上の高い天井は、炉の煙を破風《はふ》まで通すために、丸竹の簀子《すのこ》になっていて、それが年代を経ているから、磨けば黒光りに光るいぶしを包んだ煤《すす》が、つづらのように自在竹《じざいだけ》の太いのにからみついて落ちようとしている。
そこで、弁信は、熊の皮の毛皮でもあるような敷物をしき込んで、寂然として、何物にかしきりに耳を傾けているのであります。
特に念を入れて何物をか聞き出そうとしないでも、ただこうして坐っていさえすれば、弁信そのものの形が、非相非々相界のうちの何物かのささやきを受入れようとして、身構えているもののようにも受取られることであります。
果して、こうしていると、弁信の耳に、あらゆる雑音が聞え出しました。
聞えるのではない、起るのであります。それは非常なるあらゆる種類の雑音が、弁信の耳の中から起りました。
そうでしょう、この田舎家の存在するところは、内部から見ては、日本の国のドノ
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