ばんらい》死したるところの底において、ついに何物をか聞き出そうとして聞き出し得たものの如く、
「誰やら尺八を吹いておりますね、あれは鈴慕《れいぼ》の曲でございます」
 かく無雑作《むぞうさ》に言って、また仔細らしく小首を傾けたものであります。
 ただし、弁信が感心をはじめた時分には、もう曲は済んでしまったものと見えて、弁信は姿勢をくずして、炉辺の火箸《ひばし》を取って、火をかきならしました。

         二

 弁信が鈴慕の一曲を聞き終って、ホッと息をついた時に、天井の煤竹《すすたけ》の簀子《すのこ》から、自在竹を伝ってスルスルと下りて来たピグミーがありました。
 籠目形《かごめがた》の鉄瓶《てつびん》のつるへ足をかけて、ひょいと炉べりへ下り立つと、無遠慮に弁信と向い合ったところへムズと小さなあぐらをかいてしまい、十年の親しみがあるようになれなれしく、
「弁信さん、淋《さび》しいね」
「あい」
「弁信さん、いやに澄ましこんでるじゃないか」
「ええ、そういうわけでもありません」
「もう少し火をお焚《た》きよ、おいらがこの杉の葉をかぶせてやらあ」
 ピグミーは、杉の枯葉を一つ一つ取
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