しまい》を自慢にしてはいるが、尺八を吹くといったことを聞かない」
「中口ではありませんか」
「中口は、腰折れの悪口こそは言うが、尺八などはわからない男だ」
「そのほかに、われわれの同勢では、あれだけに尺八を吹ける男はありませんね」
「そうさ、もし、ここに君がいなければ、あれは北原だ、と誰も信じて疑わないところだが、あいにく、その当人がここにいてみればなあ」
「今まで、時々、尺八の音が聞えたようでしたが、われわれ仲間の誰かのすさびと思うて、さまで気にも留めませんでしたが、今日という今日は問題です、あの尺八の主《ぬし》が疑問ですよ」
「くろうと[#「くろうと」に傍点]の君が聞いて、問題になるほどの腕がありますか」
「くろうと[#「くろうと」に傍点]は恐れ入りましたが、今のはかけ出し[#「かけ出し」に傍点]のわれわれを動かすだけの味は十分です。だが、あれとても決して、くろうとの吹き方ではありませんでしたね。といって、全くのしろうとではありません」
「どうだい、君、ひとつ、ここで合わせてみたらどうだ、ちょうど、そこに一管がある、君の堪能《たんのう》でひとつ、返しを吹いて見給え」
といって池田良
前へ 次へ
全157ページ中17ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング