あの道を通ったことがございますもの」
「あの道をかい、大菩薩峠の路をかい」
「ええ」
「それはいつのことだ」
「そうですねえ、まだ、あの時から五年にはなりませんよ」
「どうも不思議だ」
 竜之助の頭が暗くなった時、天地もようやく暗くなりました。
 その暗い中に、巡礼の笠が、はっきりと浮ぶ。その子はほがらかな声で、
「暗くなりましたねえ、帰らなければなりません。どちらの道を帰りましょうか。峰伝いに杓子ヶ岳へ参りましょうか、そうして、日本のうちで、いちばん高いところにあるという岳の湯の天然風呂へ参りましょうか。そうでなければ、小蓮華《しょうれんげ》、大日《だいにち》ヶ岳《たけ》を通って、大池へ下りましょうか、大池から蓮華温泉へ出て一晩泊りましょうか。或いはまた、真直ぐに大町まで出たものでしょうか。それとも、あなたのお好きなあの剣山まで、立山連峰の道を一息に走ってみましょうか――」
 そう言われても、帰る心になれませんでした。
 天地が全く暗く、展望が全く奪われてしまっても、なお、ここに立つこと久しければ、再び夜の明ける時が無いではない――そうそう、今日は見なかった日の出が明日は見られるはず
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