鋭さと、冷たさ。わたしは、お月様のうちで、あの二日月がいちばん好きでございます」
 お雪の眼は、山から月にうつりました。
 なるほど、立山の連峰から、加賀の白山へつづくと覚しいところに、新月の影があります。
 金色《こんじき》の、聖者の最期《さいご》を彩る荘厳《そうごん》に沈んだ山と、空との境目が、その金色の荘厳を失って、橙《だいだい》の黄なるに変りました。
 その間に繊々《せんせん》としてかかる新月の美しさ。そうして、微かなるその新月の光に向いた山の峰が、涙の露を糸に引いたようなカーヴをかけているいじらしさ。
 だが、その美しさも、いじらしさも、束《つか》の間《ま》で、橙の黄なる空の色が、白蝋《はくろう》の白きに変る時分に、山々は一様に黒くなりました。
 一様に黒くはなったけれども、少しもその個性を失うのではない。槍は槍のように、穂高は穂高のように、乗鞍は乗鞍のように、駒ヶ岳は駒ヶ岳のように、焼ヶ岳は焼ヶ岳のように、赤石の連脈は赤石の連脈のように、八ヶ岳の一族は八ヶ岳の一族のように、富士は問題の外であるが、越中の立山は立山のように、加賀の白山は加賀の白山のように――展望において、やや
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