花の色。
「これが深山薄雪《みやまうすゆき》っていうんでしょう」
お雪はその一つを摘《つ》み取って、自分の唇につけながら、
「この信濃の国のうちでも、お花畑のいちばん美しい山は白馬ヶ岳だそうでございます、それはいちばん北の方にあるから雪が多く、雪が多いから地面にうるおいが出て、うるおいがあるから、こうした植物が好んで棲《す》むのだと、山の案内の方が教えてくれました。全くその通りと思いますわ。あなたは久しく物の色というものをごらんになりませんね、ですから、しっかりとこの深い色、汚れのない色をごらんあそばせ、そうして、花の名もよく覚えていて下さいな、深山薄雪といって、わたしの名と同じことなんです」
その花を、竜之助の眼の先につきつけました。
真正に、清浄な紫の色、この色が下界の花には無いと、竜之助も思いました。
「あれ、蝶が……」
とお雪は山吹のような金色の花模様の中に、ヒラヒラと舞う白い蝶を捉《とら》えようとして、浅瀬に裳《も》をとられたように引返し、
「深山白蝶《みやまはくちょう》というのが、あれかも知れません」
信濃ギンバイの黄金の中に、深山白蝶の色。
蝶を追うて、二人は静
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