しました。
「忌《いや》だ、忌だ、おれは、あの尺八の音というやつが忌だ」
 それを、丸山勇仙が笑止がって、
「性に合わないのだろう、君は、風流というものに縁無き衆生《しゅじょう》だ」
「どうもいかん、あれを聞いていると、心が滅入《めい》るのみならず、骨と、身が、バラバラに解けて、畳の中へしみ込んでしまいそうだ」
 起き上ったが、両の耳に、しっかと掌を当てて、
「どこか、あいつの聞えない座敷はないものかなあ」
「もう少し待てよ、そのうちに終る」
 丸山勇仙は、必ずしも、それほどに悪い気持で尺八を聞いているのではない。だから、他人の痛いのは百年も我慢するつもりで、落ちつき払い、
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「客ニ洞簫《とうしよう》ヲ吹ク者アリ、歌ニヨツテ之《これ》ヲ和ス、其ノ声、嗚々然《おおぜん》トシテ、怨《うら》ムガ如ク、慕フガ如ク、泣クガ如ク、訴フルガ如シ、余音《よいん》嫋々《じようじよう》トシテ、絶エザルコト縷《いと》ノ如シ、幽壑《ゆうがく》ノ潜蛟《せんこう》ヲ舞ハシ、孤舟《こしゆう》の※[#「釐」の「里」に代えて「女」、第4水準2−5−76]婦《りふ》ヲ泣カシム……」
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