そうだ、それに違いない、いま、来たのは、あれはあの娘さんだ、この宿の冬籠りのうちで、たった一人の女性、たった一人ではあるが、女性の最もよいところを多分に備えているらしいあの若い娘さんだ。
 誰もいないと安心して来て見ると、意外にも自分というものが隠れていたから、それで急に恥かしくなって引返したのだろう、そうだとすれば気の毒なことだ、だが、こういった山奥の温泉宿で、それはあんまり遠慮が深過ぎはしないか。
 なにも、ここへ入って来たとて、恥かしがるがものもありはすまいに、しおらしい遠慮だと、兵馬はまたかえって、それを微笑みました。
 兵馬の推察は、半分は当っているが、あとの半分――どんな心持でその娘が急に立去ったかは、全くわかろうはずがありません。
 お雪のこの心づかいは、賢明なものでありました。
 それは、自分たちとしては、誰に逢っても、誰と話をしても、さらに後ろめたいことは無いけれども、自分たちの連れには、人に知られていいか、悪いかわからない人がいる。当人も人には逢いたがらないし、自分たちも人に会わせたくないと思う人がいる。
 湯治に来たとはいうものの、実はその人を隠さんがために、はる
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