わかりません――どうぞ、お放し下さいまし、ね」
「は、は、は、驚きましたか」
 ここに至って手を放して、突き出した面《かお》を見ると、それは問題の仏頂寺弥助でありました。
 お雪は、仏頂寺の面を見てゾッとしました。
 もう少しおきゃんな子であったら、いきなり仏頂寺の面《つら》をハリ飛ばしたかも知れません。寛容なお雪にしては珍しいほど、憎悪の念が、この時にこみ上げて来ましたが、その次には、ほとんど座にたまらぬほど、恐怖の念さえ加わってきましたものですから、
「どうも失礼しました、御免下さいまし」
と自分がわびて、火のしを持って立とうとするのを、仏頂寺が、
「まあ、よいではないか、取って食おうとも言やしませんよ」
 それでもお雪は、取って食われるより怖ろしくなったが、幸いなことに、その時、廊下で足音がしたのは多分、この部屋のあるじ、宇津木兵馬が立戻って来たのでしょう――そのすきを見てお雪は、むしゃくしゃにこの座敷を飛び出してしまいました。
 仏頂寺弥助は、その時、もうすっかり旅の仕度《したく》をしておりました。
 お雪が逃げ出したあとへ、入違いに入って来た宇津木兵馬を見て、
「宇津木、さあ
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