出立しよう」
「おや、もう帰るのか」
「こんなところに、いつまで愚図愚図していても仕方があるまい、立つときまったら早い方がいい」
「それでも、あんまりあわただしい」
「そのうちに大雪でもあると、おっくうだからな、一時《いっとき》でも早い方がよろしい」
「うむ、それにしても明朝でよかろうではないか、今晩一夜を明かして、明朝早立ちとしたらどんなものか、拙者の方にも、これでまだ相当に仕度というものがある」
「われわれは、その今晩一夜がいやなのだ、今のうちに立ってしまいたい」
「何をそんなに、急にいやけがさしたのか」
「ここに逗留《とうりゅう》の奴等が、どうも気に食わない、イヤな眼附でわれわれを見る、さもわれわれの素性《すじょう》を知り抜いているような目つきで、われわれを見るのが癪《しゃく》だ」
「えらく、小さなことを気にしだしたな」
「それともう一つ、夜中になると聞え出す、あの尺八が癇《かん》にさわってたまらない」
「ははあ、貴殿たちに似合わない、人の眼附を気にしだしたり、尺八の音を耳ざわりにしたり、まるで神経衰弱の気味だ」
「空気が違うから気に食わんのだ、イヤに一癖ありそうな冬籠《ふゆごも
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