用心をなさい、と。
 胡麻の蠅という奴は、見込んだ相手が笠を捨てるまで離れない。こいつは通り一ぺんに腹を立てっぱなしではいられないぞ。お角だけに、気がついて、ほほえみ、急に室内を見廻してみたが、別に異状はありません。
 ふふん、目先の利《き》かない胡麻の蠅だ、人を見て物を言っておくれ、というような面《かお》つきで、嘲笑を鼻の先にぶらさげて、お角は、さて仰向けに寝返りを打って、眠りにとりかかろうとした途端に、夜具の襟でチクリと頬を突かれたものだから、見ると、不思議千万にも、珊瑚《さんご》の五分玉の銀の簪《かんざし》が、夜具の襟の縫目にグッと横に突きさしてあって、その一端が自分の頬ぺたを突いたことを知りました。
 何だい、今日はいやに、小間物でおどかされる晩だ――お角は、その五分玉の銀の簪を、夜具の襟から引きぬいて、じっと枕行燈《まくらあんどん》の光で、仰向けになりながらながめると、どうも覚えがあるようだ。見たことのあるような簪であります。
 わかった、これですっかりお里が知れちゃった。がんりき[#「がんりき」に傍点]だ、がんりき[#「がんりき」に傍点]の百蔵だ、これは百のいたずらだよ。

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