ったというのは、あれでござんすか、いやに波の穏かな、そのくせ、舟や人をさらって、いいようにおもちゃにするという、ふざけた海はあの辺でござんすか」
「ほんとに、いやな海だよ、だけれどもねえ……いやな海には違いないけれどもねえ」
 いやな海には違いないけれども、どうしたものか、さいぜんから、そのいやな海の方面に注いだ眼をいっこうはなさないで、
「いやな海は、いやな海だけれども、わたしにとっては、ずいぶん思い出がないでもないのさ」
「そうでござんしょうとも」
「ねえ、政どん」
「はい」
「お前、どう思ってるの」
「何をでございます」
「あの、ほら、東海道の三島の宿から下座《げざ》へ入った、お君っていう子ね」
「ええ、よく存じておりますよ……きれいな子も多いが、君ちゃんは品が違いましたよ。ようござんしたね、人柄がようござんした、ほんとうに惜しいことを致しましたよ」
「わたしも、本当に惜しいことをしたと思っているのさ、ああなるくらいなら、別に考えようもあったものをね」
「全くでございます、好いが好いにはなりません、悪いが悪いにゃなりません」
「そうして、あの君ちゃんの殿様てのは、その後どうなった
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