か、おまえ知ってる?」
「存じませんが、ありゃ馬鹿ですよ、馬鹿殿様の見本みたようなものでございますよ」
「何をいってるの」
「え」
 お角の言葉に少し険があったので、若いのは急にしりごみをしていると、
「出放題をいうものじゃありません、馬鹿だか、エラ物《ぶつ》だか、お前なんぞにわかってたまるものか」
「でも、親方……」
「女に迷ったってお前、それが何で馬鹿なもんか、迷えるくらい結構じゃないか、高い身分で、低い身分の女を可愛がって、それがどうして悪いの、思案の外《ほか》のところがあってこそ、人間のエラさがあるんだよ、お前なんぞに、あの殿様のエラさがわかってたまるものか」
 政どんは、なにゆえに親方が急に不機嫌になったのだかわからない。
 熱海へ湯治《とうじ》といっても、この女の仕事と、気性では、そう長く湯につかっているわけにゆかないから、今日でようやく一週間――早くも帰りの旅について、これはちょうど、根府川《ねぶかわ》あたりでの物語。
 駕籠《かご》の垂《たれ》を明けっぱなして、海を一面にながめながら、女長兵衛式に納まって、外にいる若いのを相手に話すお角さん。悠々《ゆうゆう》として迫らぬ
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