《いかん》ともすることができない。
人もあろうに仏頂寺、丸山のやからに、むざむざと一人の女性を渡してやったその不安。
日が高くなるほどに、兵馬にはその不安がこみ上げて来る。
ついに決心して、自分はそのあとを追わねばならぬ、追いかけて、二人の手からあの女を取り戻して……取り戻さないまでも、あの女の先途《せんど》を見届けてやらねばならぬ。これは単に女というものに対するの未練執着ではないのだ、義の問題だ、人間の道だ。
女の性質がどうあろうとも、こうあろうとも、むざむざと食い物にせらるべき運命をよそにして、ひとり悠々閑々の旅行ぶりが続けられるか、続けられないか。
兵馬はにわかに腰の刀をゆり上げて、松本街道の一本道を、駈足で走り出しました。
八
雪に埋《うも》れんとする奥信濃の路とは違い、ここは明るい南国の伊豆、熱海街道の駕籠《かご》の中に納まって、女軽業《おんなかるわざ》の親方のお角《かく》が、駕籠わきについている、いつも、旅には連れて出るいなせ[#「いなせ」に傍点]な若い衆に向って言うことには、
「ねえ、政《まさ》どん」
「はい」
「向うに見える山はありゃど
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