のうちでも筋骨のたくましい、風采《ふうさい》のいかめしい、面構《つらがま》えのきかない、そのくせ、はいり端《ばな》に兵馬と面《かお》を見合せて、ニヤリと笑った気味の悪い武芸者風の壮漢でありました。
「やあ、仏頂寺」
 バネのように起き直った兵馬がそれを見て、驚愕と、苦笑とを禁ずることができません。
「宇津木、ここにいたのか?」
 仏頂寺の後ろには、影の形におけるが如く、丸山勇仙も控えています。
 物騒なのが二人、連れ立って来るからには、もう少し肩の風が先吹きをしていそうなものだと思えないでもないが、そこは疾《と》うに亡者の数にはいっている二人の者、音もなく、風も吹かさず、入り込んで来たからとて、そう驚くがものはないのだが、兵馬は驚いたのみならず、多少、狼狽《ろうばい》の気味でさえありました。
 気味悪く、ニヤリニヤリと笑いながら仏頂寺は、兵馬のそばへ寄って来て、横の方の縁台へ腰を卸《おろ》すと、丸山勇仙もまたそれに向き合って腰をかけ、
「宇津木君、君あ存外人が悪いな」
と勇仙が言いました。
「なに、別段悪いことをした覚えはない」
 兵馬が申しわけをする。
「いかん、いかん……君は悪いこ
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