って、その火を睨《にら》んでいるお銀様の眼から、ハラハラと涙のほとばしるのを認めました。
 弁信は少しも昂奮してはおりません。膝を抱いて、うれわしげにうつむいてはいるが、決して泣いているのではありません。
 峠を過ぎれば、どうしても下り坂です。いかに大家でも、棟が落ちた以上は、下火になるばかりであります。おそらく朝になっても、余燼《よじん》の勢いは変るまいが、火の勢いとしては、目立たぬほどずつ衰勢に赴くのは争われません。
 おお、おお、鶏《とり》が啼《な》いている、何番鶏か知らん。
 はやりきった馬はまだ血気が下りきるまいが、鶏は平和だ。いかに業火《ごうか》のちまたでも、修羅の戦場でも、その間から鶏が聞え出せば占めたものだ。鶏の声は、暁と、平和のほかには響かない。
 しかるにこの二人はまだ、歩き出そうということを言いません。立ち上ろうとする気色《けしき》も見えません。お銀様がそれを言わなければ、弁信がそれを促さなければならないはずなのに。弁信が立てば、お銀様もいやとは言うまいに。二人とも、どちらが、どうということがありません。弁信は相変らずうつむいて、膝を抱いた上へ自分の首を埋めるばか
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