、地面に腰をおろしたとは知りませんが、ほとんど申し合わせたように、地上に坐り込んで動かないところは、動かないのではなく、動けないのかも知れません。さりとてこの二人は、非常の大変に驚愕狼狽《きょうがくろうばい》の余り、泰然《たいぜん》として腰を抜かしてしまったのでないことは、先刻からの対話でもわかります。
こうして、坐っているところへ、大火のほのお[#「ほのお」に傍点]の光線が反射して来ました。夕暮の空に金色《こんじき》の征矢《そや》のさすように、二人は、その火光を前面に浴びました。光を浴びたところの半面はえび[#「えび」に傍点]のように赤いけれども、その後ろは鯰《なまず》の如く真黒であります。
弁信は、もはやしゃべり[#「しゃべり」に傍点]ません。しゃべらないで、両膝を二つの手で抱えて、首をその中へうなだれています。火の方には向いていますけれども、最初から火を見ているのでないことは勿論《もちろん》です。お銀様は最初から火を見ているのです。立っている時もそうでした。話をしている時もそうでした。坐り込んでから後も、やはり火の消長を、ちっとも放すことなく注視しておりました……この時分に至
前へ
次へ
全373ページ中358ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング