信の胸がつぶれるのであります。
ここで、もし弁信の眼が見えて、その鋭敏な頭脳に、火と、煙の色とが映って来たなら、直ぐにそれによって、家屋の新旧と、建築の大小を判断して、これは誰の住居だと推定してしまったでしょうが、この場合、そこまでの判断を強《し》うるのは酷《こく》です。
そうして、不自由のうちにもできる限りの用心と、速度とを以て、非常の方に急いで行きますと、その行手に当って、また一つのものを感得しました。
まさに、こちらへ向って走って来る人がある。その人は一人である。たった一人で、自分と向い合って走り来《きた》る人があることはまぎれもないと思いました。
おお、そうそう、その人の荒い、せききった息づかいさえ、この胸に響き渡るではないか。
三十一
そこで弁信が立ちどまっていると、走り来って、ほとんどぶっつかろうとして、危《あや》うく残して避けたその人が、
「まあ、あなたは、弁信さんじゃないの」
「そういうあなたは、お嬢様でございましたね」
「あ、なんだって弁信さん、今時分、こんなところを一人歩きをしているのです」
「それは、私から、あなたにお尋ねしたいとこ
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