》で、火の方向に向いて、歩みを運びはじめました。
弁信は勘《かん》のせいで、いかなる時にも、いかなる道をも、踏み間違えるという心配はないが、しかし、非常と知って、特に急ぐというの自由は持ちません。
憂えを胸におさえつつも、非常に向って、ゆっくりした足どりで進んで行くうちに、おびただしく馬の嘶《いなな》く声、軒の燃え落ちるらしい音、竹のハネル音、それと共に、近隣で鳴らす半鐘の音までが、いとど凄愴《せいそう》たる趣を添え来《きた》るのであります。火はようやく大きくなりました。
しかも、それはまだ七八町も離れてはいるが、弁信ほどのものが、その精密な距離の測定と共に、現に焼けつつある家が自分と、どういう関係の遠近にあるかということの見立てを、誤るという理由は少しもありません。
いま、焼けつつある家は、自分が現に厄介になっている藤原家の邸内の、そのいずれかの部分であることは間違いがありません。藤原家の屋敷では、親子兄弟がみんな別々の棟に住していますから、納屋《なや》、物置でない限り、そのうちの誰かの住居《すまい》が焼けつつあるに相違ない。誰のが焼けていいという理由はないが、もしや……と弁
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