ません。その時はひとり悄然《しょうぜん》として離れて、その炎の燃えて、燃えて、燃え尽きる時を待つの態度に出づるほかはありませんでした。
多分、今晩もそうしたような場合から、弁信はひとり曠野《こうや》をさまようて、空《むな》しく毀《こぼ》たれたる性格の、呪《のろ》いの、若き女人のために、無限の同情を寄せているゆえんでありましょう。
こうして、行き行く間に、一つの穏かならぬ事体を、弁信が感得しました。
行手の、ほとんど十数町を隔てたと覚しいところあたりにおいて、烈しい空気の動揺を弁信が感得しました。
普通の人の耳で聞き、普通の人の眼で見ては、何の気配《けはい》もないことも、この人の心耳《しんに》にはありありと異常が感得せらるること、今に始まった例ではありません。
「ああ、何か事が起りましたな、間違いがなければいいが」
足をとどめ、胸をおさえて、行手の方を背のびするようにして注意しました。
それからいくらもたたない後のことであります、弁信が背のびをしてながめた行手の空が、ボーッと明るくなりました。
空が明るくなってみると、四方の森、林、山岳までが反射して、おぼろながら弁信の立っ
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