《げどう》よりも怖ろしいことを説いて、それを怨《えん》ずる度毎に、例の瞋恚《しんい》のほむらというものに油が加わることを、弁信は手にとるように見ているのです。
 だが、幸か不幸か、お銀様自身が吹聴する容貌の醜悪なる所以《ゆえん》を、弁信には見て取ることができません――この点は、机竜之助の見る眼と、性質を根本的に異にして、その作用は一つなのであります。
 竜之助は、容貌の人としてのお銀様を知らずして、肉の人としてのこの女を、飽くまで知りました。弁信は今、その他のものに盲目にして、心の人としてのお銀様を見ることに親切でありました。
 弁信の前にのみ、傷つけられざるお銀様の、少女としての、処女としての、大家の令嬢としての品性が、美しくえがき出さるることがあるのであります。弁信のみが、彼女の僻《ひが》めるすべての性格を忘れて、本然《ほんねん》の、春のように融和な、妙麗なお銀様の本色を知ることができるらしくあります。
 しかし、ひとたび、物に触れて彼女が、その怖るべき瞋恚の一念に駆《か》られて、満身の呪詛《じゅそ》を吐き出し来《きた》る時には、さすがの弁信といえども、それに一指を加えることができ
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