しになりました――お嬢様、大抵の人は、憤怒は人から卑しめられ、或いは他より辱《はずか》しめられた時に起るのでございますが、あなたのは、人を卑しみ、人をのろうの心から起っていることを、私は蔭ながらお察し申しもし、また御同情も申し上げているのでございます」
弁信法師は、ソロソロと歩み出して、
「しかし、どちらに致しましても、忍《にん》の道は一つでございます、憤りを鎮《しず》めるの道は、忍の一字のほかにはあるものではございません、たとえ、大千世界を焼き亡ぼすの瞋恚の炎といえども、忍辱《にんにく》の二字が、それを消しとめて余りあるものではございます、どうぞ、お忍び下さいまし」
そこで、弁信はまた立ちどまって、方向の違った天の一角をながめました。ながめる形をしたのですから、天の一角に何があるか知れたものではありませんが、牛飼座《うしかいざ》あたりの星が一つ、真暗な天地に戸惑いをしたもののように、残されておりました。
「あらゆる戒行《かいぎょう》のうち、忍辱《にんにく》にまさる功徳《くどく》は無いと釈尊も仰せになりました。それにもかかわらず、忍べないのは正観《しょうかん》の智力が足りないからで
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