だ、浦島の伝説、あれはあんまり当てにならねえ」
といって道庵は、あぶない足もとを踏みしめて縁を下りました。
 かくて上々機嫌で、臨川寺の方丈の縁を下りた道庵先生は、門前につながせた馬に乗ろうとして、例の僧形の同職に送られて庭を歩く途中、寝覚の床を眼八分に見渡しながら、
「しかし、ここで浦島太郎が釣を垂れたというのは、少少怪しいね。そもそも浦島が子の伝説は……」
と道庵は、古事記や、日本書紀をひっぱり出して、浦島の人別《にんべつ》を論じて、どうしても、あの時代に浦島太郎が、木曾の山中に来て釣をするなんていうことはない、と断定しました。
 僧形の同職は、それを聞いて同感の意を面《おもて》に現わし、
「御尤《ごもっと》もでございます、浦島太郎が、この寝覚の床で釣を垂れたというのは、全く証拠のないでたらめでございますが、一説には、こういう話がありますんですな、足利《あしかが》の末の時代でもございましたろう、川越三喜という名医が、この地に隠栖《いんせい》を致しましてな、そうして釣を垂れて悠々自適を試みていましたそうですが、その川越三喜は百二十歳まで生きたということで、土地の人が、浦島とあだ名をつ
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