吐かせて、相当の摩擦を加えてみようとの機転も利《き》かないらしく、せめて柔術《やわら》の手で、活法を施してみようとの修練も欠けているようです。この武士階級――特にこの人々に限ったことはないが、当時の武士階級の大部分は、算盤《そろばん》は持てても、刀の持てなかった人はかなりに多く、甲冑《かっちゅう》の着ように戸惑いしたのは、長州征伐の時の江戸の旗本の大部分のみとは限らないでしょう。
平常の修練がないから、非常の狼狽がある。それは歯痒《はがゆ》いわけだが、宇治山田の米友もここに至って、彼等の狼狽を憤るほかには、何と差当って、その応急手段を講ずることに無力なのを自分ながら、いらだたないわけにはゆかぬ。
「ちぇッ、いかに山家《やまが》だって、医者というものが無えのかなあ」
こういって、四たび、地団太《じだんだ》を踏んだ時に、火打石をさがす自分の手に、提灯《ちょうちん》があかあかと点《とも》っている間抜けさをさとりました。
「そうだ、こういう時の、おいらの先生じゃねえかい、道庵先生はお医者の名人だ、下谷の長者町の道庵先生に限る」
と気がついたけれども遅い、その先生はここにいないじゃないか。一
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