じゃねえか、それにこの通りの岩だろう、つかまえどころがあるめえ、土左衛門だ、わが道庵先生を木曾川まで連れて来て、土左衛門にする奴も奴だが、させる奴もさせる奴だ。
「ちぇッ」
 米友は、自分の身体《からだ》へ火がついたように、あせり出しました。
「ほんとうに世話の焼ける先生だ、油断も、隙も、なりゃあしねえ」
 米友、いかに俊敏なりといえども、寝覚の床の岩石の上を走るには、そう短気一方にばかりはゆかない。
「ちぇッ」
 幾度か舌打ちをして、もどかしがり、子獅子《こじし》が千仞《せんじん》の谷から、こけつ、まろびつ、這《は》い上るような勢いで、川下の、その川流れの、溺死人《できしにん》の、独断の推定の道庵の土左衛門の存するところに、多数が群がり集まって、罵り騒いでいる方向に飛んで行きました。
 しかし、その間にも、単に激憤するばかりではない、道庵先生の世話の焼けることの甚《はなは》だしいのに業《ごう》を煮やしているばかりではない、一面には例によって、自分の責任感に激しくむちうたれているのは事実です。
「先生……道庵先生」
 ようやくにして群集のところへ近づきました。
 ようやく河原の人だかり
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