ねえこっちゃねえ」
 彼は再び、まっしぐらに岩から岩を飛んで、声する方に走り出しました。
「ちぇッ」
 走りながらも、身をふるわして憤《いきどお》りを発しているところを見ると、その川流れ! という叫び声が、米友をして、われを忘れて憤りたたしめたものに相違ない。
「だから、言わねえこっちゃねえ」
 ただ遠音《とおね》に、川流れの警告を聞いただけで、米友の発憤ぶりは何事だろう。
 この男は、それと聞いて、はや独断をしてしまっている。いま叫ばれた川流れの本尊こそは余人ではない、わが道庵先生に相違ない、と早くも独断してしまっている。だから、本能的に憤起して、超人間的に、岩と岩との間を飛びはじめたのです。
「だから言わねえこっちゃねえ」
 自分がちょっと目をはなせば、もうこのザマだ、世話の焼けた話ったら……酔っぱらって、とうとうころげ込みやがった、軽井沢や、浅間の、ちょろちょろ水へ転げ込んだのと違って、天下の木曾川へ転げ込んだんだ、冗談《じょうだん》じゃねえ、深いぜ、青んぶく[#「青んぶく」に傍点]だぜ水が……あの先生、泳ぎを知らねえんだろう、それに酔っぱらってると来ているから、あがきがつくめえ
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