にも見えません。
「素敵《すてき》だなあ」
と宇治山田の米友が言いました。木曾第一の勝景と称せらるる寝覚の床の一枚岩の上に立っても、米友としては、これ以上の嘆称の言葉は吐けないのでしょう。
その神工鬼斧《しんこうきふ》に驚嘆して歌をつくり、または古《いにし》えの浦島の子の伝説を懐古してあこがれたりするようなことは得手《えて》ではありません。また地質学上や、風景観の上から相当の見識を立てることも、この男の得意ではありません。
ただ、平凡な景色ではないという印象が、単に「素敵だなあ」の一句に集まって、「ナンダつまらねえなあ」とけなされなかったことだけが、寝覚の床の光栄かも知れない。
米友が空《むな》しく、その好風景の岩の上に立っていると、その時川で遽《にわ》かに人の罵《ののし》る声がします。
「川流れだあ」
この声で米友が思わず飛び上って、例の地団太《じだんだ》を踏みました。
「ちぇッ」
地団太を踏んで、激しく身ぶるいをすると、
「川流れだあ」
続いて罵《ののし》り騒ぐ声がするものですから、
「それ見たことか」
米友は身ぶるいして、槍を取り直して意気込みました。
「だから言わ
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