感で、木曾の福島の駅を西に向って道庵を追いかけましたけれど、かなりのところで、その姿を見かけることができません。
「おいらの先生はどうしたんだ、みんな、おいらの先生を見なかったかい――馬に乗ったおいらの道庵先生」
こう呼びかけながら、まっしぐらに、しかしびっこ[#「びっこ」に傍点]を引いて、彼は全速力で走りましたが、誰も要領よく答えてくれる人はありません。また米友も足をとどめて、要領よくそれを聞きただす余裕もありません。彼は走りながら、叫びつづけました、
「おいらの道庵先生――馬に乗った道庵先生、下谷の長者町の十八文の道庵先生」
「もしもし」
「何だい」
「休んでござりまし、木曾お六|櫛《ぐし》買ってござりまし」
「要《い》らねえ、要らねえ」
「おみやげに桜皮のたんじゃく、墨流しのたんじゃく、お買いなさんし」
「おかみさん」
そこで米友が立止まって、これこれこういう人体《にんてい》の仁《じん》が通らなかったかということを、米友としてはかなり気を落ちつけたつもりで尋ねると、物売屋の女房が、
「ほんに、そういった御仁《ごじん》なら、たった今、西東の方へおいでなったのっし」
「西東へ?」
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