か、泣くがものはなかろうじゃございませんか」
と道庵がたしなめ面《がお》にいうと、
「ところが、あなた、お聞き下さいまし、望み通りの馬を買うには買いましたが、ただで買ったわけじゃございません」
「そりゃきまってらあな、物を買おうというに、ただで売る奴があるものか」
「ところがお聞き下さいまし、そのお金がただのお金じゃございません、血の出るようなお金で、馬を買うには買ったのでございます」
「そりゃお前さん、誰だって、そう有り余る金を持っているときまったわけじゃなし、まして失礼ながら、お前さんのような水呑……じゃねえ、水の出端《でばな》の若い人と違って、相当の年配になれば誰だって貧乏すらあな、その貧乏したところで馬を買って、道楽で引いて歩くわけじゃあるまい――愚老の若い時なんぞは、心得の悪い奴があって、飛んでもねえところから馬をひっぱって来るのを見得《みえ》にした奴があったもので、今時の若いのには、そんなことはありませんがね……そういったたち[#「たち」に傍点]の馬とも違って、お前さんなんぞは、その馬を買って、稼《かせ》ぎに使おうというんだろう、その日かせぎのお駄賃取りなんだろう、だから、
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