下げ]
「山東洋、ヨク三承気ヲ運用ス。之《これ》ヲ傷寒論ニ対検スルニ、馳駆《ちく》範ニ差《たが》ハズ。真ニ二千年来ノ一人――」
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 二千年来ノ一人……というところにばかに調子を振込んで道庵が力《りき》み返り、
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「中古ニ隠士|徳本《とくほん》ナルモノアリ、甲斐ノ人也――」
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 そこで案《つくえ》を一つ打って、すまし返りました。
 読みながら道庵は、自分ひとりが高速度的にいい心持になって行くと見えて、盛んに、朗読だか、暗誦《あんしょう》だか、出鱒目《でたらめ》だか、遠くで聞いていてはわからない文句を並べました。
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「余|嘗《かつ》テ山東洋ニ問フテ曰ク、我、君ニ事《つか》フルコト三年、技進マズ、其ノ故如何。洋子|曰《のたまは》ク、吾子《ごし》須《すべから》ク多ク古書ヲ読ミ、古人ト言語シテ以テ胸間ノ汚穢《おえ》ヲ蕩除スベシ。余、当時|汎瀾《はんらん》トシテ之ヲ聞キ未ダソノ意ヲ得ズ、爾後十余年、海内《かいだい》ニ周遊シテ斯ノ技ヲ試ミ、初メテ栄辱悲歎ノ心、診察吐下ノ機ヲ妨グルコトヲ知ル――」
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