下げ終わり]
 ここまで朗々と誦《ず》し来って、また前章に舞い戻ったものと覚しく、
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「中古ニ隠士徳本ナル者アリ、甲斐ノ人也。常ニ峻攻ノ薬ヲ駆使シテ未ダ嘗《かつ》テ人ヲ誤ラズ。頭《かうべ》ニ一嚢ヲ掛ケテ諸州ヲ周流シ、病者ニ応ジ薬ヲ売リ償《つぐなひ》ヲ取ルコト毎貼十八銭――」
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 この時に道庵先生が、また案《つくえ》を打って、けたたましく叫びました、
「ここだ、こん畜生だ!」
 そこで何か後ろめたいことでもあるように、道庵先生が急に巻を閉じてしまい、すっくと立ち上って、羽織をぬいで投げ捨て、帯を解いて抛《ほう》り出し、めちゃくちゃにねまきに着かえると、夜具の中へもぐり込んで、
「つまらねえなあ」
と嘆息しました。
 道庵先生がこうして朗読をつづけている間、次の間に控えたのが宇治山田の米友です。
 例の杖槍《つえやり》を壁の一方に立てかけて、がっそう頭に、めくら縞《じま》の袷《あわせ》一枚で、あぐらをかき、その指をあごの下にあてがって、とぐろを巻いたような形で、眼をクルクルと廻しながら、隣室の朗読を尤《もっと》もらしく聞いていたが、それも終った
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