てはくれまい」
「ええ、あれはあれで、自分の天職が定まったような心持で、おちついているようです」
「では、わたしの方から、尋ねて行ってみようか知ら」
 こんな、しんみりした会話のみで、外で聞いても、内で聞いても、聞き苦しいところは少しもない。それだけで、湯殿の中で二人が、水入らずで、流しているのか、流されているのか、更にわからない。

         二十一

 ここで話題にのぼったのはお松のことで、そのお松は、ちょうどその日のその時分は、青梅《おうめ》の町はずれを、武蔵野の広い原へ向けて馬を歩ませておりました。
 お松のやや遠道をする時は、大抵は馬に乗るのが常で、お松が馬に乗ると、早くもムク犬がその馬側にかしずくのも一つの例であります。
 今日もその通りで、青梅を出でて、武蔵野のはじまるところを、新町というのへ馬を歩ませました。
 青梅という町は、秩父連峰と、武蔵野の原との分岐点であります。秩父連峰を一つの長城と見れば、青梅の宿《しゅく》がその大手の関門でありましょう。青梅を出でてはじめて、本州第一の平原、武蔵野を見る。単に武蔵野とはいうが、関八州の平野は、武蔵野の延長に過ぎません
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