み、出世のできるだけは出世するように丹精をしたつもりですけれど」
「けれども、それが、あなた様のはね、何か自分が利用をしよう、為めにしよう、という頭が先でお世話をなさるから、親切がそれほど、あれに響きません」
「なぜか、あの子は、わたしになつかない、わたしに楯《たて》をつくようなことは一度もないけれど、心からわたしになついてくれない」
「それは、そうかも知れません」
「今、あの子はどこにいます」
「田舎《いなか》の方へ行っております」
「田舎へ行って、何をしていますか」
「いろいろ、よく働いておりますよ、自分のためにも、人様のためにも……」
「縁づいたというわけでもないのですね」
「エエ、いいところから随分縁談もありましたようですけれど、あの子には、身上《しんしょう》を持つ気は少しもないようです、このごろは寺小屋をはじめて、子供たちを教えていますよ」
「まあ、あの子が、手習のお師匠さんになっているの?」
「手習のお師匠さんばかりじゃありません、若い衆、娘たちの相談相手から、夫婦喧嘩の仲裁まで、あの子が世話を焼いておりますよ、感心なものです」
「まあ、そんなでは、とてもこんなところへ帰っ
前へ
次へ
全373ページ中214ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング