《さた》もない」
とつぶやきました。
 そこへ、
「こんちは、まっぴら御免下さいまし」
 障子の外から猫撫声《ねこなでごえ》がしました。
 来やがった、来やがった、来るに事を欠いて、おっちょこちょいの金公が来やがった。
 その声で、お絹はうんざりしてしまったが、まあ、いい、これも時にとっての、おもちゃだ――という気分で、
「金公かえ、おはいり」
と言いました。
「はい、その金公でございます」
 お許しが出たと見て、抜からぬ顔で障子を引開けて、ぬっと突き出した金公を見ると、どこで工面《くめん》したか、ゾロリとしたなりをして、本物の野幇間《のだいこ》になりきっている。
「近ごろは、とんと御無沙汰のみつかまつりまして、何ともはや」
といって、人さし指と中指を揃《そろ》えて、額のところをトンとたたき、
「これは、憎らしうございます、朝っぱらから、忍び駒のしんねこなんぞは、憎らしいことの限りでございます、ここは人里離れし根岸の里、御遠慮なくお発し下さいまし、金公の野郎にも一つ、おたしなみの程を聴聞《ちょうもん》仰せつけられたいもので……」
 ぬらりくらりと侵入して来て、置きはなしてあった三味線と
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