様のところへでも押しかけて行ってやろうか、という気にもなってみたが、それもまた、おきまりの門口をくぐり直すようでげんなりする――註、若様というのは主膳のことで、あれでもお絹にとっては、若様気分は取去れないものになっている。
 で、こんな時にこそ、お客が押しかけて来てくれればいいと思いました。そのお客といっても、ここは隠れ家同様なところだから、滅多な人を引込むわけにもゆかず、来る奴は大抵きまったようなものだから、予想し得るお客のうちでは、この倦怠気分を救い得るに足る奴は、一人もないことになっている。
 ツマらない――お絹は投げ出したように、張合いのない生活をさげすんでみたが、
「女軽業のお角って、あのバラガキめ、このごろはどうしていやがるか」
といったような、反抗気分に襲われました。いったい、この女と、お角とは、前世どうしたものか、ほとんど先天的の苦手《にがて》で、思い出しただけで、おたがいに虫唾《むしず》が走るようになっている。その苦手にさえ、ここでは小当りに当ってみたくなるような気分になったのみならず、
「あのがんりき[#「がんりき」に傍点]というやつ、あんな奴さえこのごろは音も沙汰
前へ 次へ
全373ページ中199ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング