だけ遊べる天下がほしいのだ――と、こんなような理窟をコジつけてみても、さて、外勢力がこの江戸の土を蹂躙《じゅうりん》するような日を予想してみると、腹が立たないわけにはゆかぬ。
国が亡ぶるということは、悲惨中の悲惨なことだ。なにも徳川が亡びたとて、日本の国が亡びるという意味にはならないが、それでも、大坂落城の時の殷鑑《いんかん》はどうだ。自分で飲みつぶし、使いつぶした身代は、また観念もするが、他から侵入され、征服されて、つぶされる運命は癪《しゃく》だ。癒《いや》し難い無念だ、残念だ。
ちぇッ、おれも、こうばかりはしていられないんじゃないか――神尾主膳が、いつに似気なくこんな心持になりかけた時、離れ座敷で糸の音がしました。珍しくお絹が、三味線いじりをはじめたものらしい。
二十
しかし、一方お絹の方では、主膳が身にこたえるほどに感じてはいず、これが年中行事じゃない、日課のおきまりとして、恭《うやうや》しく鏡台に向ってお化粧をはじめました。
主膳が入木道《にゅうぼくどう》を試みるのを、朝のおつとめの快事とするように、お絹がお化粧にかかる時が、この女の三昧境《さんま
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