の家庭味というものが握られて、甚《はなは》だしい酒乱にも至らず、甚だしい放埒《ほうらつ》もない。ともかくも、無意味きわまった閑居を、少しでも維持しておられるのだから、主膳としては、どうしてもあの女を放しきれないでいる。
さあ、今日あたりは例の足立のなまぐさ坊主でも、碁打ちに来ないかな――と気のついた時分、空中から、唸《うな》りを生じて、自分のながめている前庭の真直ぐ前に、轟然《ごうぜん》として舞い落ちたものがあります。
何だ――何の騒ぎだ。それは凧《たこ》が落ちたのです。見れば、西の内二枚半ばかりの、巴御前《ともえごぜん》を描いたまだ新しい絵凧が一枚、空中から舞い落ちて、糸は高く桜の梢《こずえ》に、凧は低く木蓮《もくれん》の枝にひっからまって、それを外《はず》そうと、垣の外でグイグイ引くのがわかります。
凧だな――と思って主膳が、なお窓の上から軒先高くながめると、その外に、空中には紅紫|絢爛《けんらん》、いくつもの、いかのぼり[#「いかのぼり」に傍点]が飛揚していることを知りました。
字凧、絵凧、扇凧、奴凧、トンビ凧の数を尽し、或るものは唸りを立てて勇躍飛動する、或るものはクル
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