んの口ずさみを聞きなれて、聞きよう、聞きまねに、口をついてほとばしるものでありましょう。
「茂ちゃん、茂ちゃん」
不意にその黍畑《きびばたけ》の方から、名前を連呼しながら飛び出して来たのは、兵部の娘です。
「お嬢さんかエ」
「あい、お前、そこで何をしていたの」
「笛を吹いていましたよ」
「誰にことわって、こんなところへ来てしまったの」
「つい、あるきたくなったもんだから」
「帰る気はないの?」
「だって、着物が乾かないんですもの」
「どうして、着物を濡らしたの」
「海へ、落ちたから」
「海へ落ちた? そうして、海竜《うみりゅう》が出たっていうのを知っている?」
「知らない」
「海竜が出たって、今、逃げて行った人がありますよ」
「あたしは知らないのよ」
「みんな心配するといけないからわたしと一緒にお帰り」
「お嬢さん、なんだか、あたいは、どこへも帰りたくなくなった」
「どうして」
「でも、なんだか、淋しくってたまらないもの」
「淋しければ、一層、お前、大勢の中へ帰ればいいじゃないか」
「それでも……弁信さんがいないもの」
「茂ちゃん、お前はよく弁信さん、弁信さん、て言うけれど、そんなに
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