、今、駒井の研究心を刺激していると思われるのに引きかえて、田山白雲は放胆に、
「実際、この辺の海には竜というものがいるのかも知れん、馬琴の八犬伝のはじめの方に、素敵な竜の講釈が出ている、あれによると、竜というものにも、かなりの種類があることを教えられる――」
「有史以前にはねえ……」
八犬伝の竜説は一向、駒井の念頭にはないと見えて、ほかの方に話材を持って行き、
「有史以前には、竜のようなものがあったかも知れない――この間、支那の書物で『恐竜』という文字を見たが、あれは支那本来の文字ではないらしい。事実、この人類以前の世界には、竜に似た百尺程度の大きな動物が地上にのたうち廻っていたように、西洋の本には書いてあるのだが、そういう時代の想像が、人間の頭のどこかに残っていて、そうして、竜という不可思議な動物をこしらえ上げたのかも知れない。人間の想像し得るかぎりのものには、大抵、事実上の根拠があるのだから」
「といって、人間の存在しなかった時分の存在を、どうして人間の頭で想像がつきます、生れぬ先の父ぞ恋しき、というわけでもなかろうに」
「いや、人間は存在しなくとも、人間の胚子《はいし》、或いは
前へ
次へ
全373ページ中151ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング