とんど人間が住めないかというにそうではなく、欧羅巴《ヨーロッパ》で、ベルリンとか、ロンドンとかいう、世界で一二を争う大きな都は、みんなその北緯五十度よりは北にあるのですが、人間が住めないどころか、今までに人間のこしらえた最高の文化の花が、その辺で咲いているというわけです。それはどういうわけかというに、海の潮の関係ですよ。つまり、海の中にもまた、大きな潮流の流れがあって、その流れに寒暖の二つがある、暖流の流れに沿うている地方は、緯度は遠くともかえってあたたかに、寒流の流れを浴びているところは、緯度は近くとも、気候が寒いというわけです。ですから人間の文明というものは、地理によって支配されるのでなく、潮流によって支配されるのだと言いたいくらいです。それで、海のことは大事です。海は海の領分として大事なのみならず、人間の文化の歴史の上に大事です。しかしながら、人間の力もまた軽蔑したものではありません、人間の力がまたこの潮流を支配することがあるのです――人間が、まだ未開の海に航路をこしらえて、船の通行を盛んにすると、暖流がそれについて来て、その土地の気候を一変させるという事実が、たしかにあるのです
前へ
次へ
全373ページ中141ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング