ている。頭上に二つの角を持って、さながら鬼竜のようなのが、波にわだかまってこちらに向いている。
 それが、茂太郎の額にのせられながら泳いでいる般若《はんにゃ》の面《めん》だとは、海女は知りません。

         十三

 清澄の茂太郎は、海へ溺《おぼ》れる時に、その大切に小脇にしていた般若の面をぬらすまいとして、頭の上へのせました。
 ちょうど、額へかぶせて頭を隠しているものですから、その形で泳いでいると、どうしても悪竜が一つ、海の中を渡って来るとしか見えません。
 残怨日高《ざんえんひだか》の夜嵐《よあらし》といったような趣《おもむき》を、夜の滄海《そうかい》の上で、不意に見せられた時には、獰猛《どうもう》なる海女《あま》といえども、怖れをなして逃げ去るのは当然でしょう。
 そこで、浜に泳ぎついたというよりは、波に任せて、そっと持って来て置いてもらった茂太郎は、極めて従容《しょうよう》として、砂浜の上にすっくと立ちました。
 海のおばさんの丸くなって逃げて行く後ろ影を、模糊《もこ》の間《かん》にながめながら、茂太郎は、ぬれた身体《からだ》を自分から顧みると、どうしても、その眼が
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