ら、茂太郎が、あっ! と驚きました。
「ああ、もう日が暮れちゃった」
 足を潮に洗われて、はじめて自分の空想も消えるし、感興の歌も止まるし、日の暮れたことがわかりました。
 夕陽《ゆうひ》の空には、旗のような鳥だの、垂天の翼のような雲だの、赤く、白く、紫に、菫《すみれ》に、橙《だいだい》に、金色《こんじき》に変ずる山の形だの、空の色だのというものが、見る眼をあやにしたり、心をおどらせたりするけれど、その夕陽が全く落ち尽して、一色の墨色が、天と、地と、水を、塗りつぶしにかかってみると、自分の空想も塗りつぶされて、現実のわれに返ったものと見えます。
 そこで、この少年は、またも一散《いっさん》に砂浜の上を走りつづけました。
 後生大事《ごしょうだいじ》に、般若《はんにゃ》の面《めん》を小脇にかかえて放さぬことは、いつもに変ることなく、軽快に砂原を走って、あえて疲れ気も見えないことは、山神奇童とうたわれた名にもそむかないようです。
 なお、こうして走ることは走るが、その目的がわからないのも、以前と同じことで、ともかくも、あの馴染《なじみ》の多い駒井の家を遠く離れてしまって、あえて帰りを恋しが
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