らの稚気満々たる競争を、思い止まらせる手段はないと考えた。
 そこで、※[#「てへん+主」、第3水準1−84−73]杖《しゅじょう》を取って、両者の頭の上にかけ渡して言う、
「さあ、お前たち、じっとしておれ」
 そこで東海の水を取って、※[#「てへん+主」、第3水準1−84−73]杖の上に注ぐと、水はするすると※[#「てへん+主」、第3水準1−84−73]杖を走って、富士の頭に落ちた。
「富士、お前の頭はつめたいだろう」
「ええ、それがどうしたのです」
「日は冷やかなるべく、月は熱かるべくとも、水は上へ向っては流れない」
「それでは、わたしが負けたのですか、八ヶ岳よりも、わたしの背が低いのですか」
「その通り」
 大菩薩はそのまま雲に乗って、天上の世界へ向けてお立ちになる。
 その後ろ姿を見送って、富士は歯がみをしたが及ばない。八ヶ岳が勝ち誇って乱舞しているのを見ると、カッとしてのぼせ上り、
「コン畜生!」
といって、足をあげて八ヶ岳の頭を蹴飛ばすと、不意を喰った八ヶ岳の、首から上がケシ飛んでしまった。
「占《し》めた! これでおれが日本一!」
 その時から、富士と覇を争う山がなくなっ
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