大菩薩峠
みちりやの巻
中里介山

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)噂《うわさ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)毎日|晨朝諸々《じんちょうもろもろ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「てへん+主」、第3水準1−84−73]
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         一

 武州沢井の机竜之助の道場に、おばけが出るという噂《うわさ》は、かなり遠いところまで響いておりました。
 ここは塩山《えんざん》を去ること三里、大菩薩峠のふもとなる裂石《さけいし》の雲峰寺《うんぽうじ》でもその噂であります。
 その言うところによると、この間、一人の武者修行の者があって、武州から大菩薩を越え、この裂石の雲峰寺へ一泊を求めた時に、雲衲《うんのう》が集まっての炉辺《ろへん》の物語――
 音に聞えた音無《おとなし》の名残《なご》りを見んとて、沢井の道場を尋ねてみたが、竹刀《しない》の音はなくして、藁《わら》を打つ男の槌《つち》の音があった。
 昔なつかしさに、そ
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