いか」
「ふふん……」
と七兵衛が、それを聞いてそらうそぶきました。しかし、何とも二の句をつぐ気にならないで、テレ隠しに摺付木《マッチ》をすりました。
 なるほど、泥棒は人のものをただ取る稼業《かぎょう》だが、そのかせぎ高は知れたものだ。そうしてその運命も知れたものだ。
 しかるにこの小僧は、人に戦争をさせておいて、自分は重宝《ちょうほう》がられながら大儲《おおもう》けをしようとする。いつもながら、こいつの言うことだけでも、人を呑んでかかっているのが、返す返すもしゃくだ。いったいこんな奴が成功したら何になるのだ。ただ口前ばかりではない、着々として、そろばんに当る仕事をしているのだから、いよいよ癪《しゃく》だ。
 言うだけのことを言って出て行った忠作のあとを見送って、七兵衛は、あの年で、人に戦争をさせて金を儲けようとは、言うだけでも末が恐ろしい、とあきれました。
 なるほど、これに比べては、盗賊商売などは問題にならない。
 人によっては、資本のかからない、割のいい商売として、盗賊を第一に置くが、よくよく考えてみれば、知れたものだ。
 現に自分が、今日までに盗んだ金額を、そっくり日割にして
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