みたところで、ちょっと気の利《き》いた日傭取《ひようとり》の分ぐらいにしか当るまい。それでいて、一歩あやまれば首が飛ぶのだ。実際、泥棒なんという仕事は、道楽でなければできる仕事ではない――見ること、聞くこと、今日はいやな日だ、と七兵衛は、そのままゴロリと横になりました。
ゴロリと横になったけれど、七兵衛においては、ゴロリと横になることだけでさえが、相当の思慮用心を費さねばならないのです。
たとえば、こうして横になっている間にも、疲れが出てツイうとうととした時分にでも、不意に御用の声を聞こうものなら、咄嗟《とっさ》にハネ起きて、さばきをつけるだけの用心をしていなければならない。
そこで、七兵衛は、横になった身体《からだ》を、そのまま自分で衝立《ついたて》の蔭まで引きずって行き、頭から合羽《かっぱ》をかぶり、枕もとへは煙草盆を置いて、これが万一の場合は目つぶしになり、それと同時に、この衝立の上へ足をかければ、あの窓から外へ飛んで逃げられる――そこまで考えてからでなければ、昼寝もできないのです。
いや全く、盗賊という商売は、手数のかかる厄介な商売だ――人に戦争をさせて、大金を儲《もう
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