包の中央に立って帳面を振分けて、これもしさいらしい吟味をしている。無論、七兵衛のあることは、誰もまだ気がつかない。
 帳面と、そのこも[#「こも」に傍点]包とを、すっかり引合わせてしまったアツシを着た前髪の商人が何とも言わないのに、人足たちは、積込むだけのものを積み終わると、大八車を引っぱって、この店の前を立去る。
 帳合《ちょうあい》を終った少年は、しきりにそのこも[#「こも」に傍点]包の荷造りを改めはじめる。余念なくその荷造りを調べている時、後ろで、
「忠どん?」
「え?」
 はじめて気がついた、そこに先客のあることを――
「おじさんかい」
「何だね、そのこも[#「こも」に傍点]包は……」
「こりゃ、おじさん、こっちの包みが刀で、こっちが鉄砲の包みだよ」
「え……刀と鉄砲? どちらも大変に穏かでねえ。それをお前が、いったいどうしようというのだ」
「どうしようたって、おじさん、お屋敷へ売込むんでさあ」
「お屋敷……ドコのお屋敷へ?」
「そりゃ、おじさん、わかってるだろう、その薩摩守のお屋敷へさ……」
「お前が……その鉄砲と、刀を、薩摩のお屋敷へ売込もうというのか――?」
「そうさ」

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